パーキンソン病治療の基本

パーキンソン病に対しては、内服薬治療を行うのが基本ですが、全て対症的治療であり、根本的に治癒させる方法はまだ見つかっていません。けれども、対症的治療は、注意深く行えば大変有効、かつ安全ですので、悲観的に考える必要はありません。例えば、近眼の人は、近眼そのものを治さなくとも、適切な眼鏡をかければ、日常生活を不自由なく暮らすことができます。パーキンソン病の治療もこれと同じで、適切な治療薬を適切な量使えば、不自由なく日常生活を送って頂くことが出来ます。適切な治療をおこなえば、パーキンソン病のために寿命が短くなることはありません。パーキンソン病が出現するのは、40歳台後半から50歳台が最も多いので、この病気に対する対症治療は、その患者さんの余命までの30~40年間は続ける必要があります。すなわち、パーキンソン病の治療計画は、少なくとも三十年計画でなくてはならないのです。

30年あるいはそれ以上の期間にわたって有効な治療を継続していくためには、次のような心構えや注意が必要です。

①治療の目標は、自覚症状をゼロにすることではなく、日常生活に不自由がないことです。手の震えをゼロにする必要はありません。手の震えが消えるまでお薬の量を増やしてしまうと、長期間にわたる治療が出来なくなってしまいます。

②他の病気で何か別の薬を使用する必要がある場合には、パーキンソン病の主治医と他の科の医師の間で、充分に連絡をとってもらってください。パーキンソン病の治療薬の中には、胃酸分泌を抑える薬や、胃潰瘍の予防薬、吐き気止めなどを併用すると、効き目が激減するものがあるためです。

③長く続けていたパーキンソン病治療薬を急に中止すると、全身が固くなって動けなくなり、高熱を発して、場合によっては死に至る危険性がありますので、勝手な自己中止はしないこと厳禁です。事故や急病で救急搬送入院されたような場合は、必ず、搬送先の医師からパーキンソン病の主治医に連絡をとって頂き、どのようにしたら治療継続が出来るのかを相談してもらってください。全身麻酔による手術、特に胃腸の手術では、経口薬がしばらく使えなくなりますので、その対策を予め相談してもらう必要があります。

④2週間以上の長期間の床上安静を要するような状態を生じますと、パーキンソン病の症状は急に悪化します。そんな状態として最も多いのは、大腿骨や脊椎の骨折で、いずれも転倒で生じます。転倒事故は自宅内で起こることが多いですから、勝手知ったる自宅内においても、移動々作はゆっくりと。

⑤未だ効果についても、安全性についても確立していない治療法には、絶対に手を出さないでください。

岩田 誠